団地の響き

高校の時、付き合ってた彼女が

とても綺麗な装丁の本を読んでいた。

ちょうど、今くらいの季節。

クリスマスカラー、深い緑と鮮やかな赤の二冊。

ビートルズの曲のタイトルがついてた。

その本を僕の彼女に紹介した男と

僕はいまだに付き合いがあり

親友と呼べる唯一の男だ。

その男が、この間の音瓶波ラヂオの時に

これを僕に手渡した。


僕はこの物語を、

2010年の10月に読み終えた。

自宅で珈琲を飲みながら、

仕事帰りに赤ちょうちんで一杯呑みながら、

休みの日には、

入院中の、かすかに息だけをしている

何も言わない父親の横で、

そっとページを開いたりした。

そして

月がふたつ光る世界に、たっぷりと浸った。

たっぷりと。

読み終わって

深い余韻の中に閉じこもってたら

同じ高校の同級生からメールがきていた。

なにやら北の大地で、

同窓の会があるみたい。

根なし草の僕を、

わざわざ探し出してくれたらしい。

が、僕はまだその人に返事を出せてない。

物語の余韻のせいなのか、

秋の空が、どこまでも深いからなのか。

過去と未来が、ぐにゃっと突然、

いびつな形で、僕に迫ってきてる。

こんな感じだろう、と思ってた時間のイメージが

僕の中でまた形を変えようとしている。

僕は少し困惑してる。

そんな僕を、

まあまはじっと見てる。




久しぶりに実家でピアノを弾いた。

こいつの前に座ると

いろんなことを思い出す。

まだ小学生の頃、

大好きだった女の子がピアノが上手で

その子の住む団地の真下にこっそり行き

その子の練習してる音をじっと聞くのが好きだった。

夕方、肌寒くなってきて

ひとりうずくまって聞いてると

お腹が、きゅーんと痛くなってくる。

けど、そのピアノの音はずっと聞いていたいから

ほんと、困ったものだった。

ピアノの音の粒が、お腹に響き渡って

余計に痛い。。



団地の夕暮れ。

あの子の笑顔。

ピアノの音。

痛くなるお腹。




冷たい鍵盤に触れれば

僕はあの頃のことを

くっきりと思い出せる。

30年前の自分に、

言ってやることがあるとしたら

僕は今

阪本正義という歌い手と知り合って

その人の作った魂の曲を

まだこのピアノで、練習してるぜ。

大好きだったあの子のピアノみたいに

上手くは弾けないんだけど

あの時とあまり変わらない気持ちで

大好きなピアノと向き合ってるさ、おーい。


明後日に迫りました、麗しき日曜日番外編、

芳しき木曜日!

阪本さんとのデュオで

たっぷりお届けします。

ラ・カーニャのピアノの響き、最高です。

どうぞ仕事帰りに、お立ち寄りください。

ひと声かけてくれれば

前売り料金にできますよ。


10月21日(木)下北沢・『La Cana』

麗しき日曜日・番外編 〜芳しき木曜日〜

出演:東京バンド・阪本正義withジョー長岡

7:00open 7:30p.m start

予約2000円 当日2300円

Tel.03-3410-0505

世田谷区北沢2-1-9第二熊崎ビルB-1

http://www1.ttcn.ne.jp/~LaCana/



つまらないことで

また母親と喧嘩した。

いや、決してつまらないことではなかった、あの時は。

しかし今となっては。




おかあさん、ごめんなさい。

こんなところで

そっとつぶやいてみる。。

やれやれ。

畜生。

届け、俺の気持ち。

響け、俺のピアノ。


ジョ