ヘブンズ・ミュージック


《枕》


ラジオと幼少期の自分との関係
父からもらったラジオ。
多感な時代
部屋で1人聞いた音楽や朗読、ラジオ劇

今の自分との関連
インターネットラジオの仕事




…今からお届けするお話は
自分の担当する架空のラジオ番組に
不思議な便りとリクエストが
舞い込んでくるってお話です。



便りの主は、
僕の父方の祖父、
長岡よしおからでした。



タイトルは
『ヘブンズミュージック』



じゃあ本番いきます。
(収録風景の佇まい)



(照明変わる)
(リバーブon)







こちらはラジオソロモン
ラジオソロモン

番組名は
ヘブンズミュージック


周波数は
スギナミ スタックスフレッド
ゴーゴー! ヘルツ

こちらはラジオソロモン
ヘブンズミュージック

遠い地平線は消えて
深々とした夜の闇に心休める時
はるか雲海の上を
音もなく流れ去る気流は
たゆみない宇宙の営みを
告げています

(jet stream口上引用)


こちらはラジオソロモン

番組名は
ヘブンズミュージック


距離を超えて
時間を超えて

あなたの大切な人から人へ
素敵な音楽と
メッセージを手渡します

さあ
心のアンテナを高く掲げて


ただそこにある
愛しい想いに
チューニングを合わせてみませんか。


ナビゲーターは
ジョー長岡です




こちらは
ラジオソロモン
ヘブンズミュージック








拝啓
ジョー長岡さま

はじめてお便りします。

わたしは長岡よしおと申します。


南太平洋はソロモン諸島にあります、
レンドバ島という小さな島に今、おります。
私は帝国海軍の軍属であります。


国家の為、
ふるさとの為、
両親や妻、
幼い子供の為に
ニッポンからおよそ一万キロ南方のこの地で
任を全うしております。


一年の平均気温は25度
島全体が熱帯雨林に覆われ
赴任してすぐに肌は黒く焼け
暑さと飢えの闘いを日々強いられております。


我が帝国陸海軍は
1941年12月8日
山本五十六総司令官の命を受けた精鋭達が
ハワイ真珠湾を奇襲攻撃
アメリカ連合軍との全面戦争に突入。


大東亜帝国の建立と
石油資源確保を理由に
南太平洋の島々を次々と制圧、
故に我々は
本土から遠く離れたこの南方の島にいるわけです。


最前線にて敵国の侵攻を防ぎ、
ニッポンの平和と繁栄を
体を張って守っております。



私は
山口県は光という小さな港町で産まれました。
光市、室積。
かつては瀬戸内海航路の交易の要所として栄華を極め


全国からの物資が行き来する、
それは賑やかな港町だったそうです。


今は小さな漁港ですが、
木造の立派な灯台をはじめ、
当時の面影は街のあちこちに色濃く残っております。


私は
パン屋を営む両親の元に6男として生を受け
地元の女性と巡り会い結婚、
子供も2人授かりました。
1人はまだ母親のお腹の中であります。


そんな折りの
大本営からの
召集令状でした。



山口県はご存知の通り
かつて長州と名乗っておりました。


長州藩関ヶ原での敗戦以降、
この国の覇権から除け者にされた『外様』であり
その屈辱に長きに渡り耐え忍び
明治維新の際は
長州藩精鋭の若武者達が
徳川幕府を打倒。


松下村塾奇兵隊
卓越した知性と行動力で
この国の近代化の基礎を築き上げ
現在に至るまで政財界の中枢に
多くの人材を供給する県に成長したのであります。


国を護る為なら命も厭わず(いとわず)

これが長州の 男達の気概であり、誇りでもあります。


私も長州男のはしくれとして
帝国海軍に従軍する際は
家族や地元の方々の熱い声援を受けて、
気持ちは高ぶり、
大きな誇りを胸に
ふるさとを離れるに至りました。


若い妻や幼い子供たちを残すことに
なんの未練もないと言えば
嘘になります。
なりますが、

国家繁栄の為に
天皇陛下の為に
粉骨砕身(ふんこつさいしん)
この命捧げる思いに
悔いは微塵もありません。


リクエストは
長州の民謡
「男なら」をお願いします。





こちらはラジオソロモン
ラジオソロモン

番組名は
ヘブンズミュージック


今日も
長岡よしおさんから
お手数を頂きました。



前略
ジョー長岡さま


今日もソロモン諸島レンドバ島より
お便りします。


暑いです。
紙が残り少なくなってきました。
使い古しのボロ紙で失礼します。


手紙が本土へ届きにくくなっていると噂で聞きました。
これがジョーさんの元へ
正確に届いてればいいのですが。


戦線は厳しい局面もありますが、
隊一同、志をひとつにして
国家に忠義を尽くすべく
粉骨砕身(ふんこつさいしん)の日々。



私達の駐留するキャンプ近くに
細く綺麗な小川が流れています。


1日のうちに何度か、
水を汲みに行くのですが


その川へ向かう小道が
ふるさと室積の路地の坂道によく似ており


いやあれは似ているというか
その坂道そのものでありまして


毎日通るたびに
思い出しております。


子供の頃
あの坂道を
近所の遊び仲間と
歌いながら走りながら
潮風の心地よかったことを
思い出しております。



(独り言のように)

ソロモンの海は
瀬戸内の海によく似ている。


波が穏やかで
深い青はどこまでも美しく
澄んでいる。


晴れた日は
海と空の境目が消えます。
まるで自分が
真っ青な宇宙の円の中心に
ひとりぽつんと突っ立っているような気さえする。



子供の頃、皆でよく歌った
野口雨情の
『あの街この街』をリクエストします。



最近
替え歌を作りました。
よかったら聞いてください。


あの街この街日が暮れる
日が暮れる
今きたこの道帰りゃんせ


おうちがだんだん遠くなる
遠くなる
今きたこの道帰りゃんせ


お空に夕べの星が出る
星が出る
今きたこの道帰りゃんせ


レンドバにふるさとの路地あらわる
ふるさとの坂あらわる


レンドバにふるさとの海あらわる
ふるさとの風立つ


今きたこの道帰りゃんせ
帰りゃんせ
帰りゃんせ






こちらはラジオソロモン
番組名はヘブンズミュージック



1943年
昭和18年7月24日


今日
私の身体から
重力が抜けていくのを感じました。
はっきりと感じました。
初めての感覚でした。


身体がふっと軽くなって
地に足が付かなくなって
そのうち
隊の仲間たちを上空から眺めていました。


私の視界に
ジャングルに倒れる私自身がいました。



ジョーさん
聞いてください。


何度も言いますが
私の命など
この国の
この世界の悠久の歴史の中に
何度でもくれてやります。
悔いも未練もありません。


ただ
ひとつだけ。


妻のお腹にいる
新しい命にだけ
一目会いたかった。


一目会って
ぎゅっとこの腕で
抱きしめてやりたかった。


今4歳になる私の長男と
新しい命とが


青年になり
大人になり
誰かを愛し愛されるまで


神様
どうか私に代わって
お守りください。


お守りいただけないのなら
私はあなたを殺しにいきます。

今、私の傍にあるこの錆びた銃剣で
あなたの左胸を迷いなく
一突きにします。
その時は覚悟してください。



ジョーさんにこのようなことを吐露しても
仕方ありませんが

他の術をしりませんでした。
お許しください。


どうか私の想い、
この使い古したボロの紙で
受け止めてください。



長岡よしお







こちらはラジオソロモン

ヘブンズミュージック


2010年12月24日

前略
ジョー長岡さま

お元気ですか。

久しぶりにお便りします。


先日、私の息子が私の傍にやってきました。
長男の方です。

私はしっかりと彼を抱いてやりました。
彼は生前、私の姿を記憶していない為か、
はにかんでいました。

が、71年の生涯を全うしたと、
満足そうな顔で、そう言ってました。


私は神に感謝しました。
錆びた銃剣はもう必要ないでしょう。





雲の切れ間から
ニッポンが見えます。
山口の室積の海が見えます。
子供の頃駆けずり回ったあの坂道もはっきりと見えます。


周辺の国と比べても
ニッポンの放つ光は
美しさも強さも格別です。
まるでこの国には
闇がないみたいだ。



ただ
わたしには見えないものが
ひとつある。
それは


そこに住む人たちの心模様。



(淡々と)


ジョーさん、
ニッポンは
どんな国になりましたか。

食べるものはありますか。
着るものは間に合っていますか。
暑さ寒さを凌げていますか。
ゆっくり眠れますか。
お金は足りてますか。
誰かを愛してますか。
愛されてますか。

まだ戦争は続いてますか。
平和ですか。
ニッポンは幸せですか。


ジョーさんに
いつかお会いできるような予感があります。
その時を楽しみにしています。


長岡よしお





よしおさん
お便りありがとうございました。


12/24ってことは
ちょうどクリスマスイブの夜、
全国各地のイルミネーションが
瞬いていたんですね。


上空からの夜景、実に羨ましい。
いつか見てみたいな。


よしおさんのお便りを受けて
今日は最後にこの曲を流して
番組を終わりにします。


あなたが戦った敵国の港町で
1940年に1人の男の子が生まれました。
名はジョンレノン。


彼の2度目の結婚相手は
日本人の才気溢れる芸術家だったんですよ。


魔女呼ばわりされて
最初は大変だったみたいです。


この曲でもサビで醜い奇声を張り上げてます。
素敵な人です。


そう、
ジョンは1980年の12/8に
亡くなりました。
日本が連合国相手に戦線布告したのと同じ日です。


僕もよしおさんと
いつかお会いできる気がしてます。
よしおさんの問いにどう答えるかは
その時まで取っておきます、
とにかく会ったら
ぎゅっと抱きしめてくださいね。


よしおさんと
リスナーのみなさんに
この曲が届きますように。




Happy X'mas
War is over
John Lennon


ラジオソロモン
ヘブンズミュージック
周波数は
スギナミ
スタックスフレッドゴーゴーヘルツ!


ナビゲーターはジョー長岡でした。
この曲を聴きながら
お別れしましょう。
次回もお楽しみに。
ご機嫌よう!


(一礼)



(照明変わる)
(リバーブoff)



『ヘブンズミュージック』


作、朗読は
ジョー長岡でした。


ご静聴、
ありがとうございました。