ハードボイルド・サンタクロース


朗読オブザリングvol.4

『ハードボイルド・サンタクロース』

〜聖夜の告解〜



⭐︎

サンタクロースも
仮面ライダー
ウルトラマン
宇宙戦艦も
銀河鉄道
メーテル
この世に実在すると
信じて疑わなかった
あの頃のジョー長岡は
40年近く経った今でも
大して代わり映えしない
生き物である。

サンタが冴えない父親だと悟った8歳、
そんな父を憐れみ懐かしむ47歳。
まるっきし同一人物。

(冊子原稿より)



⭐︎



(枕)

8歳のクリスマスパーティー
クラッカーで炎上するツリー
歓喜が一瞬にして壊れるパーティー

謝罪の大人2人
テーブルに新しいクリスマスツリーと
菓子折りと
封筒(お金が入っていると思われる)

ビターなクリスマス体験

幸と不幸の
隣り合わせ感

子供から大人へ
移行期



ここまでの作品に登場したサンタ達の話
(いろんなサンタ)



今夜僕がお届けするのは

自己肯定感の薄い
自己肯定感の乏しい環境で幼年時代を過ごした
とある中年男性サンタクロースの
告白、告解、懺悔を聞いてもらいたく思います。
題してハードボイルドサンタクロース。

神様は
そしてこの話を聞いた皆様は
この中年サンタを許してくれるのでしょうか。

いきます(中村氏に合図)
フィクションです。

(照明暗く、柔らかいリバーブ



⭐︎



(本編)


「ハードボイルド・サンタクロース」


ーーー聖夜の告解ーーー




私は子どもが嫌いだ。


私は家族団欒が嫌いだ。


私は年末年始が嫌いだ。


私は善人が嫌いだ。



私は暗闇が嫌いで

死後の世界を恐れている。


神はいると思うが

神を必要以上に崇拝する者たちが嫌いだ。


目に見えぬものを

必要以上にあがめ

その大切さを必要以上に啓蒙する者たちを

軽蔑している。


そういう者に限って

目に見える悪事や不正、

現実の中にいくらでも見渡せる

ドロドロとした人間の業を

自分の業も含めて

見て見ぬ振りをする。


極端に言えば

意識的に見て見ぬ振りをする人は

まだいい、


無意識に見て見ぬ振りをする人は、

真に醜い。





私は高所恐怖症で

家の屋根に上がるなんて

考えたこともない。


高いところなのに

柵一つで区切られてるような場所を

心底憎んでいる。例えば

滑り台の一番高いところ、


あの狭い場所にある

鉄でできた細い柵が

落ちてしまった時のことを

滑り台で遊んでいる子ども、

遊ばせている大人たちは

少しくらい考えたことがないのだろうか。

不思議でしょうがない。



高い場所の2点をロープで結んで

そのロープに箱をぶら下げて

上がったり下がったりする乗り物が

信じられない。

ロープが切れて落ちてしまえばいいってこと以外

考えられない。




私は閉所恐怖症で

暗く狭い場所に身を置くと

身体中に蕁麻疹が出て

痒くて痒くて

正気が保てない。


屋根に上り

時と場合によっては

あの埃っぽい狭い煙突から

家の中に侵入する。。

絶対に!ありえない。



私は長年水虫を患っている。

湿気の多い夏場は

足の指と指の間が蒸れてるし

靴下から常に変な匂いがしている。

他人の靴下に手を入れる…

ましてやその中に贈り物を忍ばせるなんて

破廉恥極まりない。




私はウィンタースポーツができない。

スキー、無理!

スノボ、無理!!

ソリはぎりぎりいけるが

時速10キロ以上のスピードで

意識を失ったことが3度ある。

…無理っ!!!




私はトナカイが苦手だ。

子どもの頃から苦手だ。

あいつらは

私から言わせると常に不機嫌で

あの奇妙な形の

でかい尖ったツノで

私の突き出た腹や尻を

容赦なく突いてくる。

しかも

手加減ってものを知らないので

結構な痛さで、

青アザができる。

それは子どもの頃から続いており

その傷が消えた試しがない。

その傷は汚い刺青のように

私の肌にドス黒い色で沈着している、

腹や尻に、今も。

(ん、見せようか。)




私は幼い頃

万引きをして

その犯罪がバレるまでに

乾電池およそ150個とボールペン約200本を

机の引き出しの奥に隠し持っていた。

乾電池一個、ボールペン一本たりとも使っていない。

封も開けていない。

それらが必要な時は

必要な分を買って、使っていた。

引越しの際にすべてがバレ、

親に激しく叱られたが

親の判断でそれらを店に返すことはしなかった。

親自身が、

躾のできない

万引き常習者の保護者になりたくなかった、

という理由で。






私には前科がある。

…詳しくは言えない。

私は性犯罪の 前科もの だ。

…これ以上は言えない。

私はこどもが嫌いだが、、ロリコンだ。

…もうこれ以上聞かないでくれ。

嫌いな対象に性的に惹かれてしまう人間の性(サガ)については

共感できるでしょ、どうだろう、、

もう、これ以上は、もう、、聞くな!


私も喋るな!!




私の好きな色は黒。

嫌いな色は赤。

大昔に、雪の降り積もる寒い日に

車と小動物の事故現場に遭遇したことがある。

小さな子犬が

左折する10トントラックに巻き込まれ

馬鹿でかい後輪に轢かれた直後だった。


真白い雪に

真っ赤な鮮血が

飛び散っていた。

その赤は、心にこびりついてしまったのか

私の記憶から消えない。


私は幼い頃、

子犬が大好きだったけど

事故を見て以来

子犬が嫌いになってしまった。





私は

嫌いな人がいない

と豪語する人が嫌いだ。

そんな綺麗事を

まるで人生の哲学のように

自分のアイデンティティーのように語り振舞う人が

嫌いだ。

一切信用できない。


関わりたくない、

勝手にやってくれ

と、本気で思う。



私は人ごみが嫌いで

イルミネーションが嫌いで

原発も嫌いだ。

原発は今すぐ廃炉にすべきだと思う。


神戸のメリケン波止場での出来事。

プラントハンターって仕事の

軽薄な調子こいた兄ちゃんが

富山の山奥から、でかいあすなろの樹を引っこ抜いて

世界一のクリスマスツリーとか騒ぎ立て

鎮魂とか復興とかダシにして

金儲けしようとしてる。

応援してる糸井も槇原も、嫌いになった。

スポンサーのフェリシモの通販、好きだったのに。

フェリシモは許そうかな。。




好きと嫌い

善と悪

愛と憎

すべて紙一重

世界は常に

バランスをとろうとする。

考えてみてくれ。


ショッカーと仮面ライダー

ほぼ同じ時代に生まれた。

宇宙怪獣とウルトラマン

同じように。

これの意味するところは。


宇宙の果てからガミラス帝国が攻めてくれば

無敵の宇宙戦艦が

波動砲って放射能のカタマリを撒き散らす。


どちらかが絶対的であることは決してなく

絶妙なバランスで

均衡を保ち

両者はくんずほぐれつ

相組み交わす。



限りある命と

永遠の命が交錯する世界で

星と星を結ぶ銀河鉄道に乗った少年は

善人と信じていた美しい女に

最後の最後裏切られる。

しかし少年は、

機械の魔女を愛してしまった。

心から愛していた。

哀しい青春の幻影、

万感の思い込めて今、汽笛を鳴らそう。

少年のために、私は祈ろう。



ゴッサムティーにコウモリ姿のヒーローが現れると

たちまちピエロ姿の悪魔が街に現れ、

マフィアだってビビるほどの悪の限りを尽くす。

悪魔はヒーローに顔を殴られながら、こう叫ぶ。


「いいか、俺とお前は兄弟だ、

お前がこの世にいる限り、俺は絶対に消えない」





子供の頃、

プロレス中継をみていた私に

父が投げかけた言葉が

今でも忘れられない。

「どうせ八百長なんだろ、

こんなもの見たって仕方ないだろう」


私は父を軽蔑した。

心の底から軽蔑した。

口の中に生臭い血の味が広がり

吐きそうになったが

こらえた。

涙が溢れそうになったが

それもこらえた。



父の言葉の数ヶ月前

私が見たひとつの風景。


街から街へ

旅をするプロレスの興行、

夜な夜な

熱い闘いを繰り広げた翌朝には

同じバスで次の街に移動する。

前夜、敵と味方に別れていたはずの人間達が

善と悪が

好きと嫌いが

同じバスで旅をしている。


何故だろう、

私は涙が止まらなかった。

小さくなるバスの後ろ姿を

その姿が見えなくなるまで見送った。

八百長バスを

泣きながら見送った。



世界の、宇宙の真理を

垣間見た、私は。





子供が嫌いで

年末年始が嫌いで

家族団欒が嫌いで

高所、閉所恐怖症、

トナカイ苦手

ウインタースポーツ無理!

万引き癖と

性犯罪の前科もの

なにより人が、大嫌いな私が



この日この夜だけは

あの男に近づこうと

もがいている。

(わかりますか、この気持ち。)


ポケットには

蕁麻疹に効く塗り薬を入れてね。



いつも着ている黒猫マークの上着は脱ぎ捨て

子犬の鮮血と同じ色をした分厚いコートをきて

つけ鼻、白ひげ

試しに腹巻きをまいたら

出た腹がより突き出て見える。

うん、悪くない、いいぞ。

(自分に言い聞かせる)


さあ出かけようか。

このろくでもない世界へ。

これが私の仕事なのさ。

(pc閉じながら)


(暗転)




おしまい


作、朗読/ジョー長岡



※朗読は淡々とわかりやすく。
感情が入りすぎないように。
湧き上がったものは抑えないように。